漫画家北川みゆきさんが2chに勝訴

漫画家・北川みゆきさんと出版社の小学館(東京・千代田区)が、 著作権を共有する書籍の対談記事を2ちゃんねる(2ch)掲示板に無断転載されたとして、2ch管理人の西村博之を提訴した事件。 東京高裁は請求を棄却した一審判決を覆し、著作権侵害となる書き込みを放置したことについて、2ch管理人に削除と賠償命令を下しました。


事件の概要

雑誌対談のコメントが掲示板に転載

2002年4月、小学館より出版された北川みゆきさんの書籍「ファンブック 罪に濡れたふたり ~Kasumi~」に収録された対談記事の一部が、 2ch内のスレッド「みんなうんざりだって★北川みゆき」上に投稿されました。

書籍の著作権をシェアする小学館と北川さんは、これを無断転載とみなし、著作権(送信可能化権)侵害にあたるとして、 当該書き込みの削除要請を2ch管理人に求めます。

原告側が最初にとった方法は、ファクシミリ(5月9日)と電子メール(同10日)で当該発言が著作権侵害であることを警告し、削除を要請するものでした。

▼小学館がメールで送った削除要請▼

私は小学館少コミ Cheese! の編集長をしているIと申します。 2ちゃんねるの少女漫画サイトの「みんなうんざりだって★北川みゆき」で小社刊の「ファンブック 罪に濡れたふたり ~kasumi~」の 18ページにわたる座談会ページの全文が公開されており、これは明らかに著作権侵害ですので、すみやかに削除をお願いいたします。

これに対して管理人である西村氏は2日後の12日、「削除依頼板へおねがいします。」と返信。このやりとりが2度繰り返されたといいます。

管理人を著作権侵害の罪に問えるのか?

そして小学館と北川さんは、「読者との対談記事を勝手に書き込まれた上、著作権侵害による過去ログ削除を要求したのに実行されない」として、 転載内容の削除と権利侵害に対する損害賠償(300万円)を求め、管理人・西村博之氏の提訴にのり出しました。

書き込みをした発信者ではなく、掲示板の管理人がはたして著作権侵害に問われるのか。 また、ネット上での著作権(送信可能化権)に関する新たな判例が出るのかに、世間の注目も集まる裁判となりました。


裁判の経緯

「引用」をめぐる攻防

争点は、①当該書き込みが著作権法32条で正当行為とされる「引用」にあたるか、②過去ログの削除請求は妥当か、 ③削除義務違反に対する損害賠償、の大きく3分類され、法廷で原告、被告の攻防が繰り広げられることになりました。

中でも、著作権法の解釈をめぐっては被告の西村氏も「『北川みゆき』という表現者に対する議論、批評を目的としているスレッドにおいて、 発言者が表現者の作品を引用することは、著作権法上正当な行為として許される。本件スレッドは、本件各発言後も続いており、 文章の主従では当該箇所は明らかに従であり、出版物をすべて転載したのではなく、約200ページの書物のうちの5ページ分を転記しただけであり、 引用の範囲としても妥当である」と強気の自論を展開。

対して原告側は、対談記事は記事1、記事2で合計29ページを占めるものであり、被告の5ページに過ぎない旨の主張は事実に反すると返し、 読者の購買意欲に訴える対談記事をほぼそのまま送信可能化したことは、「報道、批評、研究その他の引用の目的でされたものということができず、 また『引用の目的上正当な範囲内』を逸脱するものであることは明らかである」と反論しています。

一審判決は「請求棄却」

2004年3月11日、一審東京地裁(三村量一裁判長)が下した判決は、原告の請求を棄却するというものでした。

本件書き込みは、著作権上許された引用には到底該当するものではないが、権利侵害の当事者は発信者であり、 管理人に非がなく権利侵害の事実を知り得たと認められない以上、送信可能化権差し止め(書き込み削除)の義務も賠償責任も負うことはない、というのが判決理由です。


結果(判決など)

逆転控訴審の決め手は著作権法

一審判決を不服とした小学館と北川さんは、東京高裁に控訴。専門の著作権法について武装を厚くし、積極的に切り込みます。

その結果、2005年3月3日の判決では、一審判決を棄却し、原告の訴えである転載部分の削除と損害賠償請求(120万円)が認められる結果となりました。

東京高裁の塚原朋一郎裁判長は、「著作権侵害があった場合、管理者は速やかに是正措置をとる義務がある。 出版社側からの通知で知り得たのに削除せず、侵害行為に加担した」と述べ、転載部分へのアクセス数を3000件として損害額を算出しました。

ネット上での著作権保護呼びかけに一石

これまでも、管理人の西村氏が削除義務違反に問われた裁判はいくつもありますが、本裁判では、掲示板上において著作権を侵害する内容の書き込みを放置した行為によって賠償責任を問われました。

判決に対して小学館は、「著作権を守るためには節度ある運営が必要。著作権に対して無責任な状況は放置されるべきではなく、判決は妥当だと思う。 今回の判決により、ウェブ上で著作権を保護することの大切さが伝われば」とコメントを出しています。

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